「津波34m」の逆境、産業に変えた 黒潮町のグルメ缶秘話
美しい海岸線を誇る高知県黒潮町は、南海トラフ地震により最大34メートルの津波が想定されると発表された町だ。
自慢だった海が脅威に変わっても、町はそのリスクを悲観することなく、マイナスをプラスに変えて新たな産業と防災文化を生み出すことに成功。
それが高知の美味しい食材を詰め込んだ保存食グルメ缶詰だ。
事業のきっかけは東日本大震災。
黒潮町とカツオ漁でつながりの深かった宮城県気仙沼市の被災地を訪ねた町職員は、避難生活を送る人々が抱える深刻な食の悩みを目の当たりにした。
アレルギーがあって非常食を食べられない、非常食の種類も栄養も不足していて口内炎ができ痛くて食べるのがつらい、心が不安定になっている子供たちにあげたい甘いものがない。
これを受けて黒潮町は「非常食ではなく、毎日でも食べたくなるおいしい缶詰」をコンセプトに、2014年黒潮町缶詰製作所を設立。
手作業で作られるこだわりの缶詰はアレルゲンフリーかつ高品質で、今では年間20〜25万個を販売。経営も黒字を続け、20人近くの雇用も生み出している。パッケージには津波の予測最高値を意味する34Mのロゴマークがデザインされ、黒潮町ならではの防災文化をブランド化した。
「にげる」「おいしいごはん」とひらがなで大きく書かれた缶は、小さい子供でもわかるよう避難行動を促しながらも、がんばって逃げた先には大切な人と再会し、安心してごはんを食べる時間があるよ、というポジティブなメッセージが伝わってきます。防災を「恐怖を煽るもの」ではなく、「前向きなもの」として捉えている点が素晴らしいと感じました。
また黒潮町では近年、防災ツーリズムにも力を入れているそうで、津波避難タワーの見学や避難訓練、防災缶詰を使った創作料理体験など、有料にも関わらず昨年だけで1000人以上の参加者があったそうです。
防災を対策ではなく、文化や産業として日常に根付かせるたくましさを感じました。
地震大国というネガティブな日本の特徴を逆手に取り、グルメ缶詰のようにワクワクしながら備えられる防災グッズや楽しんで学べる防災体験などポジティブに展開していく黒潮町から学ぶことは多く、自分がこれから苦難と対面することになったときにもポジティブ変換しておいしく楽しく乗り越えていこうとパワーをもらった記事でした。