インドの牛が車を走らす 

インド西部にあるアジア最大級の乳製品メーカー「バナス・デイリー」では周辺農家から牛ふんを回収し、自動車用燃料のバイオガス精製をしている。牛の排泄物を、貧困削減と生活レベル底上げの救世主と考えるモディ首相の後押しもあり、インド社会の抱える課題解決を目指す。
牛ふんは1キログラムあたり1ルピー(約1.8円)で買い取られ、バイオガス発生後の残りは有機肥料として農家に還元。車1台が1日走るためには牛10頭の1日分のふんが必要だが、インドには約3億頭の牛がいるため、牛だけで1日約3000万台分の燃料がまかなえる計算だ。

牛の排泄物を放置しておくと、二酸化炭素の28倍ともいわれる温室効果があるメタンが発生するため、バイオガス用に再活用すればメタンの大気への放出が抑制できるとともに化石燃料の代わりとして脱炭素にも貢献でき、カーボンニュートラルに寄与する。「神の乗り物」とされ、ヒンズー教で神聖化されている牛の「糞」に今、熱い視線が注がれている。

温暖化対策として地球の未来に貢献するこの取り組みは、農家にしてみれば不要なものが安定した現金収入と肥料になって返ってくる。クルマ社会に生きるインド国民にとっても、ガソリンの半額程度というバイオマスは大きな家計の助けになります。捨てられるものから、一国としても地球全体としてもみんなにメリットだらけの宝が生まれる、無から有を作り出すお手本のような取り組みだと感銘を受けました。

これから安価なバイオマスで走れる車が普及していくことで、インド国民の生活も大きく変わっていくと想像できます。地方の若者は都会の学校や企業などを将来の選択肢に入れられるようになるし、田舎には設備がない高度な医療が必要な患者さんの命を救うこともできるようになるでしょう。国の中枢である都市部のことだけを考えず、地方の人々を含めた国民全体が豊かになるように努めるモディ首相の姿勢を、地域どころか自分のお財布しか見えていないような日本の政治家さんたちも見習ってほしいものだと感じました。また私自身も、国民や地球を豊かにするとまで大きなことはできなくても、自分や身近な人の可能性が広がるような、一見何でもないことから素晴らしいことを生み出せるような仕組みを考えてみたい、と新年の抱負がひとつ生まれた記事でした。