『盟主の誤算 ドイツ総選挙 極右に誘う 危機下の不満』

出典:日本経済新聞 2025年2月21日

ドイツのショルツ連立政権の瓦解に伴う総選挙が今月23日に迫っています。最新の世論調査では、国政最大野党で保守陣営のキリスト教民主・社会同盟が首位につけていますが、最近になって頭角を現してきているのが極右政党のドイツのための選択(AfD)です。
AfDの共同党首アリス・ワイデル氏は1月25日に東部ハレで大規模集会を開き、次期首相に就任した際には「初日に国境を閉鎖する。不法移民はもうたくさんだ」と自身のシナリオを披露しました。
この政党はこれまで歴史的な国の危機に乗じて勢力を伸ばしてきました。例えば2013年の欧州債務危機、2015年の難民危機、2022年のウクライナ危機などです。当時の社会の不満を巧みに吸い上げ、現在も勢力を広げています。党幹部らは、ナチス時代のスローガンを繰り返し唱えており、有権者を煽って支持を集めるその姿は、第一次世界大戦後の世界恐慌で大衆を熱狂させたナチスに重なるものがあります。
そんなドイツのための選択肢(AfD)ですが、現在旧東ドイツのほぼ全域で優勢になる結果が出ております。主要政党はAfDとの連立を否定しており、政権入りの可能性は現時点では低いものの、総選挙は東西の分断を映し出しています。
国内の反応としては「AfDが改善をもたらさなければ、3年後には他の政党と同じように嫌われるだけだ」という意見がある一方、「AfDだけが国民の思いを代弁してくれる」と着実に支持を広げています。

私の小学校、中学校時代のことですが、父が駐在員だったことでドイツに住む機会がありました。住んでいた場所はドイツ西部のデュッセルドルフでした。デュッセルドルフは日本企業のドイツ支部が多く集まっており、日本人にとって住むには快適に感じておりましたし、トルコ系の方々も多く暮らしていました。また、現在はどうなっているかわかりませんが、当時は深夜になるとナチス政権によるホロコーストの映像がテレビで放映され、過去を風化させるなというメッセージで締めくくられていました。街中で電車の乗り換えの際や、言葉がわからず困っているときに、当たり前のように話しかけてくれ、助けてくれた方もたくさんいました。
そんなドイツが再び排他的な思想に染まりつつあると知り、残念な気持ちになりました。こうなってしまった原因には、ここ5年間で世界的な変化や影響があったからかもしれません。例えば、新型コロナウイルス渦での自粛、中東・ウクライナでの戦争、それに伴う移民、難民問題。これらの出来事は着実に人々の心を閉ざし、視野を狭め、結果として憎悪、嫌悪を助長することになっているのではないでしょうか。広い視野を持ち、次を予測して行動することは非常に難しいことですが、そういった行動が求められる時代になったのだなと感じさせられました。